アナルコ・キャピタリズム研究(仮)

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知的所有権は研究開発投資を減らすと同時にイノベーションのインセンティブを小さくしている

功利主義は倫理的に問題があるだけでなく、首尾一貫していない。彼らは知的所有権法を取り上げ、その法がプラスの純便益をもつかどうか判断するために、「便益」から「コスト」を引いたりするが、その時は個人間の効用比較といった非論理的なことをせねばならない。そこに来て、すべての価値あるものが必ずしも市場価格をもっているわけではないのである―実際、どんな物にも市場価格などないのだ。市場価格をもつ物であっても、その価格はその物の価値の尺度にはならないということをミーゼスは示した。

 

最後に、個人間の効用比較問題と再分配の正義問題を脇に置き、標準的な功利主義の計量手法を使って前に進んだとしても、以下のことはまったく明らかでない。つまり、知的所有権法がはたして全体の富の変化(増加であれ減少であれ)につながるかどうかは、さっぱりわからないのだ。著作権特許権が創造的な作品の生産を促すかどうか、また発明を促すかどうか、あるいはイノベーションによって増加する利益が知的所有権制度の巨大なコストを上回るかどうかということは議論の余地がある。おそらく特許権法がない世界のほうがよりイノベーションを生み出すだろう。たぶん特許の取得や特許に関する訴訟にお金を使わないで済むのなら、研究と開発(R&D)にもっとお金を回せるだろうからだ。また、20年に近い独占を当てにできないなら、企業はかえってイノベーションを起こすより大きなインセンティブをもつということもありうる。

 

N. Stephan Kinsella

AGAINST INTELLECTUAL PROPERTY

Utilitarian Defenses of IP

より