アナルコ・キャピタリズム研究(仮)

★無政府資本主義の理論(経済学)◆リバタリアニズム▽海外リバタリアンの文献翻訳■時事問題・日常生活▼ロンドン暮らし

差別がないという地獄 その4

Hoppe, Uncertainty and Its Exigenciesの翻訳続き。

■医療カルテル

政府による規制は混乱の一要因にすぎない。FDA(食品医薬品管理局)とAMAアメリカ医師会)にも大きな問題がある。どんな医薬品にも許認可を要求するFDA・厚生省は廃止されなければならない。これらは生産と流通を遅らせ、生産コストを上げ、それゆえ不必要な高価格と不必要な死・苦痛をもたらしている。

保険規制と医薬品認可だけではない。すべての福祉国家で医学部・病院・薬局・医師・その他の医療従事者が厳しい免許制度になっている。これは例えば医師の供給がシステマティックに制限されているということである。医療産業はカルテル、すなわち供給の制限と高価格維持をずっと試みてきた。アメリカ医師会は政策的意見を統一し、また労働をカルテル化している。

医師会が労働カルテルに使ってきた道具が医学部設置の許認可制度である。医学部志望者はたくさんいるのに定員は少ない。市場が自由ならば新しく学校ができるだろう。多くの医学部浪人が生まれるのは学校設置が違法になっているからである。それどころか現役医師たちはその定員を充足させまいともしているのだ。新しい医学部の設置を「合法化」するだけで、あっという間に医療サービスの供給は増加し、価格は下落するのである。

新しい医薬品と医師の質はどうなるか。政府による強制的な免許制度に代わって自発的な認定機関が市場に現れる。そういう機関による認定が、評判を求める医療機関にとって、また安全を求める市民にとって役に立つ。高いレベルの医師は厳しい認定機関に評価を依頼し、市民は予算の中で最高格付けの医師を選ぶだろう。

そのようなオープンで競争的なシステムは安全性に問題があると考えるかもしれない。だが次のようなアナロジーで説明されるだろう。「見てよ、あのおんぼろシボレー。安全性も快適性もあったもんじゃないね。皆が最高のものだけを消費するという社会目標からはまったく程遠い。僕らはすべての車がBMWやベンツの水準になることを主張しなければいけないだろう。」だが市場に高級車しかなければ、ほとんどの人が歩くか自転車を使うことになろう。しかし現実に、(われわれが通常必要とする)費用のかからない小さな病気を見るためのシボレー医師は違法であり、メルセデス医師のたいした訓練のいらない医療に高いお金を払っているのである。

(終わり)