アナルコ・キャピタリズム研究(仮)

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差別がないという地獄 その3

Hoppe, Uncertainty and Its Exigenciesの翻訳続き。

■政府による保険の規制

連邦レベルあるいは州レベルでの保険規制・義務化の例はゴマンと挙げられる。49州でアルコール中毒を、また27州でドラッグ中毒を保険の対象とすることが義務付けられている。また他に保険適用となるものとして整体(45州)、足病(37州)、心理カウンセリング(36州)、社会福祉士によるサービス(22州)がある。

ジョージア州では心臓移植、イリノイ州では肝臓移植が、カリフォルニア州では結婚相談、バーモント州では牧師カウンセリングが、マサチューセッツ州では精子バンクが保険カバーされる。12以上の州でエイズに関する質問がされない。ワシントンDCでは保険購入者のHIV検査が禁止されている(これなど家を燃やした後に保険加入して費用を請求するようなものだ)。

カリフォルニア州では遺伝的な差別が禁止されている。鎌状赤血球症はほぼ黒人のみに見られ、テイ・サックス病は大部分がユダヤ系であるのにだ。遺伝子の差異に関する研究は飛躍的に進歩しているのに、保険会社はそれを利用することができない。

このような規制は保険会社にとってメリットもある。彼らは本来保険不可能なリスクをカバーすることで保険料を上げることになるが、「差別的な」保険会社との競争を免れることができるのでその高価格を維持できる。しかし価格が上昇するにつれ消費者は市場からドロップアウトすることになる。低リスクな人にとっては保険料が異常な割高になるからだ。これは政府の干渉によってかわいそうな落ちこぼれが生まれているということである。

人々にとって保険に加入しないことはますます合理的な選択になっている。保険に入らないことはリスキーなことであるが、不摂生を促すような保険、さらに自分たちは対象にならないとわかっている保険に、健康な若者が高い保険料を払うのは馬鹿馬鹿しい。

繰り返して言うが、政府の干渉がこのような混乱を引き起こしたのである。保険会社は「正しく差別する」ことができないために、本来カバーすべきでないものを保険することになり、それによって価格が上昇し低リスクの人たちがはじき出され、さらにそのことが価格上昇をもたらすという悪循環になっているのだ。

だがここで話は終わりではない。今、合衆国は「落ちこぼれを出すな」と健康保険を強制しようとしている。もしこれが実行されると保険料は急激に上がるだろう(訳者注:逆選択排除による価格下落効果よりも需要強制・産業保護に伴う価格上昇効果のほうがはるかに大きいということだと思われる)。この次には何が来るか。価格統制である。そしてこれが急激なサービスの不足を引き起こし、カナダのように治療のために1、2年の順番待ちが必要になるという事態になるのだ。

医療サービスの供給はますます政治化されるだろう。エイズなどは治療を要する「良い病気」となり、タバコなどは治療の必要がない「悪い病気」となる。そして悪い病気にかかった人はどうぞ死んでくださいということになるのだ。

政府の干渉主義の行き着く先はどこだろうか。それは個人の無責任・近視眼的行動であり、危険な行為の蔓延ということである。

(続く)